とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 もう誰にも怒りはないし、今更誰かを恨んでいるわけはない。

 でも和解もしないまま転校していった私に、良い思いをしている人はいないに違いない。

「一矢くんは誰にでも好かれてそうでいいよね」

「俺が?」

メールを打っていたらしい手を止め、顔を上げた。

その驚く様子にこちらの方が面食らう。

「おかしいなあ。好かれたい相手には全く好かれないのに」

「それは可哀想ね」

「キスは試してくれたんだけど、脈はあると思う?」

クスクス笑いながら探る。探る目は、優しいのにこちらの気持ちを見透かそうと真っすぐで、射抜かれてしまうそうだった。

「本人も分かっていないんじゃないかな」

 ずるい答え方をした。逃げてばかりの私の曖昧な返事を、微笑んで許してしまう。

 ずるいのは私か彼か。

 朝、起きて酔いが醒め真っ青になった美里に聞いてみようと思う。

 
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