とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
四、ウソツキ、嘘つき、うそつき
朝、出勤して一番に美香さんが私の肩を叩く。

けれど私よりも浮かれているように見える。

爪も時間をかけたジェルネイルだし、髪も透明感が出ているブラックブルー。

いつもの派手なシャツではなく、白と水色のチェックのレトロなワンピース。

明らかに服装から何から雰囲気が変わっている。

「何かいいことがあったんですか?」

「えー、分かる? 辻さんにコーディネートしてもらっちゃったあ」

あの人、遊んでそうな雰囲気を隠さないくせに、自分の趣味はこんな清純派で大人しそうなファッションなんだ。

でもいつもの美香さんより可愛らしく、守ってあげたいような可憐さは出ている。

「今日、一緒にランチに出ない? 今ならナンパされそうな気がするの」

「ええ、辻さん狙ってるんじゃないんですか」

なんで他の人にもナンパされたがるの。

「本命になれるか、わかんないでしょ。こっちも本気アピはやめてるの」

ウエイターが格好いいカフェにランチに行こうよって、お財布から色んなカフェのスタンプカードを出してきた。

「あ、ここのポイント溜まってる。ここにしよー、デザート驕ってあげるよ」

行きたくないです。

はっきりと断っていたら、開店していないお店のドアを叩く音がして、二人でそちらを見た。

「え……おじいちゃん」

アロハシャツとサングラス、頭にはベレー帽。

いつもの厳格そうな和装ではなく、陽気なファッションのおじいちゃんが開かないドアをガチャガチャ回していた。
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