とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「うえ。あのおじいさん、何?」

美香さんが引いているのを見て申し訳なくなる。

「ごめんなさい。おじいちゃんです」

「ああ、華怜のおじいちゃ……はあ!?」

美香さんは私とお爺ちゃんを交互に見て驚いている。

無理もない。お爺ちゃんは駅に自分の顔写真を載せた『駅から10分 丹伊田歯科』と

広告を出している。白衣で銀のフレーム眼鏡で孫の欲目から見てもダンディで格好いい。

 あの写真は結構、加工、修正しているし全盛期の時の写真だけど、でもあのイメージを持っている人もすくならずいる。

「写真詐欺じゃない?」

「うん。おじいちゃんは黙ってたら格好いいの。昔から」

 渋々ドアを開けると、飛び込んできたのはマカデミアナッツのチョコレート。マーライオンの写真が載っている。

「華怜~。ハワイのお土産だぞ」

「シンガポールじゃないの? てかどうしたの? 私、仕事中だよ」

 定年退職してから、黙って厳格そうなふりをしていた期間の爆発かのごとく弾けたおじいさんになってしまっている。

「白鳥さんにはアポ取ったよ。午前中は空いてるから気軽にどうぞと」

「そうなの。でも旅行に行ってたの?」

「そう。海外旅行帰りだよー」
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