とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
海外旅行って。

おじいちゃんが退職して、しばらく名誉会長を名乗って経営に口出してたけど、それも退いたんじゃなかったの。それから歯科は経営が傾いてるって聞いていたのに。

「えっとおじいちゃん、シンガポールとハワイだけ?」

「半年でヴェネツィア、台湾、韓国、ドイツ、イタリアも行ったかな」

イタリアとベネツィアは同じなのも分かっていない老人が、半年でそんなに海外に?

というかそんなに散財するから経営が苦しくなるのでは?

おじいちゃんの行動に眩暈が起きそうだった。

「おじいちゃん。お金は大切に使ってよ」

お爺ちゃんには確か、私が婚約した理由を告げていないはず。

母方の親戚は、歯科医や医師等のエリートばかりだって母が自慢していたし、私みたいに専門学校出なんて、学費を出してもらっただけでも感謝しなくちゃいけないはずだけども。

「なーに。お金のことは全く心配いらないよ。それより、華怜の首から下げてる社員証、なぜまだ苗字が――」

「ああああっと、ランチね。ランチでゆっくり話そうよ、おじいちゃん」
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