とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
美香さんにも白鳥さんにも、お見合いしたことも強制的な結婚のこともなにも伝えていないので、お爺ちゃんの発言は大問題だ。

美香さんなんて面白がって色々聞いて来るに決まっている。

「お仕事中だから、あと二時間ちょっと待ってランチしよう。ね?」

「じゃあ映画で時間潰すか。終わったら電話してくれ」

おじいちゃんは、人生を謳歌してはじけてしまっているが、憎めない可愛いところもある。

威厳ある真面目なおじいちゃんも好きだが、おちゃめで私服が酷いところは可愛いと思う。

お店から出てすぐにタクシーを止め乗り込んだ姿を、美香さんと二人で眺めた。

「すごい。やっぱ写真と実物って全然違うよね」

「そう。でもおじいちゃん、可愛かったでしょ?」

「ま、あ。面白そうね」

言葉を濁した美香さんに首を傾げつつも、私も甘やかすつもりはないのだと決意する。

経営が悪い今、派手で華美な行動は社員たちの不安を仰がないのかな。

従兄弟も数人、うちの歯科で働いているはず。

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