とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「私も彼も仕事の休みが合わないの。だからもし合えば、いつか行くから」

「そうか。じゃあお前の口座に振り込んでおくから」

「旅行費用もいらないよ。経営が苦しいときに私だけ楽はできない」

おじいちゃんはもうとっくに退職しているので、祖父の栄光に縋って努力を怠った親戚たちが悪いのかもしれない。

でも、だからと言って、たださえ他の親族とは違って専門学校しか出ていない私がさらに祖父のお金を使うのは気が引ける。

「ん? うちの歯科、経営が苦しいのか?」

 しかも祖父には告げていないらしい。

 それはそうか。言ってしまえば、老後を楽しんでいる祖父の邪魔をしてしまう。

 一代でここまで築き上げてきた祖父が哀れだ。

「いや、シンボルであるお爺ちゃんがいないなら、大変じゃないのかなって」

「ははは。順調順調。お前の従兄弟たちは優秀だぞ」

「……そうなら、いいんだけど」

冷や冷やする。私が祖父にばらしたら、どんな火が起こるのか分からない。

「お前が心配することはなあんもない。借金は一昨年返し終わってるし、去年は年商も大幅アップしている。心配なら、見せてもいいぞ」
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