とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「もういいじゃない。責めるのは私だけ。一矢くんを責めていいのは私だけってば」

当時、どれだけ彼が言われていたのか分からない。

でも言い訳もせず、祖父の言葉にだた謝る彼を見ていると胸が痛む。

おじいちゃんの病院の経営が苦しくて手を差し伸べてくれていて、その原因の人の嫌味を言われたんじゃあ、彼の立場がない。

「おやおや、尻にしかれるねえ、一矢くん」

「そうですね。もっと敷かれてもいいです、彼女になら」

「いやあ。熱い熱い。アイス頼んじゃおうかな」

「リゾット食べてからにして」

それからお爺ちゃんと一矢くんは、先週あったお笑い芸人の番組について盛り上がりだした。

二人が見ているなんて想像できないような、深夜のお笑い番組なのに。

「……」

頼んだ珈琲のストローで、グラスの底を啜った。

氷が少しずつ解けてストローに吸い込まれていく。

それを観察しながら、色々と二人の関係が怪しいことに気づいた。

「もしかして、……おじいちゃんと一矢くんって結構前から交流があるの?」

 お互いお笑い番組が好きだと知っているほど、好みを熟知しているのはおかしい。

なにかのきっかけでお笑いと言う共通点から仲良くなり、一矢くんは祖父の経営難を知った、とか?
< 125 / 205 >

この作品をシェア

pagetop