とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「華怜は今、ようやくお洒落を楽しみだしたの。指先だけど、私も驚くぐらい丁寧に装飾して自分の美を育て始めた。あんなにきれいに生まれて、誰からも愛されないのは悲しいけど、それでも自分と向き合い始めた。誰が反対しても、私は娘が学力や地位に縛られるより、一歩歩き出したことを評価するし受け止める」

だから貴方にはもう関係ないのよと、罪を軽くしてくれようとした。

「娘を詮索するのはやめなさい。忘れて、可愛いお嫁さんでももらったらいい」

何も教えないわよと玲華さんはさっさと人ごみに紛れてしまった。

追いかけて話そうとしたら、父が慌てて俺を捕まえておとなしくしていろとくぎを刺した。

ようやく華怜さんは歩き出している。

そういえば玲華さんの指先も真っ赤に染められ美しかった。

そうか。また。

またいつか、街中ですれ違った時、あの美しい髪が見られる日が来るのかもしれない。

だったら俺が気にしていたら、気持ちが悪いかもしれない。忘れよう。忘れて俺もいい加減歩き出そう。

彼女を陥れた陰湿な女性の嫉妬を思い出し、また俺の前で性格をかえるような女性を多々見てきたせいでどうしても信用できないし、恋愛に積極的にできなかったんだよな。

それは数年経っても変わらなかった。

親友の真琴が結婚すると言い出しても、俺には真剣に将来を考える相手は現れなかった。
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