とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「お前は初恋を引きずってるからなあ」

「うるさい。でも美里さんの結婚式なら彼女も来るかな」

「まさか。嫌な思い出の学生時代の奴らと会うわけないだろ」

結婚すると報告された居酒屋で、真琴は俺に衝撃的な真実を告げた。

「ボーイッシュってやつかな。綺麗な子は髪が短くてもお洒落で可愛いよ。中学時代の黒髪ロングの清楚系じゃないけど――」

「え?」

「高校まで女子高で、しかもネイル系の専門学校も女子ばっかだろ。美里に聞いたら、彼女、男性恐怖症になってるらしくて」

「それってやっぱ俺が髪を切ったせいか?」

彼女は今も髪を伸ばせていない。

男性と接触するのを避けている。

それは俺が関係ないと、美怜さんは言うのか。

関係ないから忘れろと、俺に言うのか。

「気になるなら、ほら住所」

真琴は彼女の仕事先の住所を教えてくれた。

「遠目で見てくればいい。自分の目で確かめて来いよ」

自分の目で。

気づけば、居酒屋から飛び出していた。バケツをひっくり返したような大雨の日。

走るたびに足に水が撥ねてしみ込んでいき、体温を奪われていく。

けれどどうしても、彼女に会いたかった。

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