とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
まさか俺と無理やり結納まで終わらせておいて、他の男性と飲みに行くとは思わなかったし、紆余曲折あったものの、今は割と幸せだ。

いや、もしかしたらめちゃくちゃに幸せかもしれない。

家に帰ったら、拒絶しないで俺を見てくれる彼女がいる。

たまに一緒にお笑い番組を見てくれる。

一緒に食事をしてくれる。美味しい食事を作ってくれる。

撮りためたお笑い番組を見ながら寝落ちしたら、タオルケットを持ってきてくれたり。

お弁当箱を用意して、一緒に作ってくれたり。

今は何か変化があるたびに幸せだった。

「いや、今日は妹が来たのに任せっきりにしたのは悪かったか」

喬一くんと一緒だったはずだからなにか不備はなかったはずだけど、お礼にケーキでも買ってマンションまで急いで帰った。

ゆっくりでいい。俺は自分のために急かせるつもりはないから。

だから。

いつか、嘘つきの俺たちを彼女が責める日が来ても覚悟はできている。

もう一度、愛し気に俺の名前を呼んでくれる日がくればいいんだけどね。

「ただいま。華怜、うちの妹は帰った?」

どれが好きか分からず大量になってしまったケーキを渡そうとリビングへ向かう。

すると通話中の華怜が外を向いてカーテンを握りしめていた。

電話中ならばと、冷蔵庫にケーキを入れておこうと静かに移動していたら、コトンと小さな音がした。

振り向くと、華怜が携帯を落とした音だった。

「電話終わったの?」

「ええ。……なにかおかしいと思って従兄弟に電話してみたの」

「ふうん。あのさ、ケーキを」

従兄弟に電話。

その意味に気づいて、言いかけたまま固まってしまった。
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