とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「華怜」

お、気が済んだかなって、身体をねじったらゆっくり剥がされた。

顔を下から見上げると、口がまだだらしなくにやけていた。

「俺、右の頬を引っ張るので、左の頬を引っ張って」

 だらしない頬を摘まむと、耳が真っ赤になった。

 どうして、私なんかにここまでだらしない顔になるのかな。

 クールで黙っていたら女性なんて、よりどりみどりだろうに。

 どうして私にここまで好意を寄せるかなあ。

「いたひ」

「生きている証拠だね」

「ふぶっ」

痛いくせに喜んでいるので、効果がないだろうなと抓るのをやめた。

「それでですね、華怜さん。ケーキがあるんですが」

「お腹空いたね。冷蔵庫に生焼けのハンバーグがフライパンごと入ってるけど、ケーキ食べよう」

いそいそとキッチンに向かうと、カウンターに置かれたケーキを見る。

その隙に、一矢くんはソファに倒れて悶えていた。

二人にしては大きい箱だと、中を覗くと七つも入ってる。

安堵したせいかお腹は空いたけど、ブラックコーヒーを飲むとしても食べられる量ではない。

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