とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「ああ、ごめん。なんだろ、やばいな」

「だ、大丈夫? 意地悪で言ったわけじゃないからね」

「分かってるよ」

クスクス笑いながら自分の枕へあお向けに倒れこみ、腕で目元を隠した。

「髪を伸ばしたいって思ってくれてありがとうって思ったら、泣けた」

ださいなあって私とは反対側に顔をそむけてしまった。

彼らしい照れ隠しに、私も幸せで胸がはじけ飛びそうになった。

「こっち向いてよー」

「嫌だよ。洗濯が終わるまで俺は寝る」

「顔を見せてくれないと寂しいなあー」

背中に抱き着くと、悔しそうに振り返った。

その眼にはもう涙はなかったが、代わりに泣き出しそうなくしゃくしゃの顔だった。

「髪、伸ばすから。だから誰よりも一番長く私の髪に触れてね」

「あーもう。知らないぞ、俺は知らん」

 寝返りを打った一矢くんが、私の上に再び覆いかぶさってきた。

 重なった身体。感じる熱に、戸惑いつつも一矢くんと向かい合ったまま目が離せない。

「洗濯とかもう知らない。今が何時とか腹が減ったとか、初めてなのに怖がらせないようにとか、もう俺は知らない。我慢しない。知るか」
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