とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
男性と二人で話すなんて、今までしたこともない。

父は、病院に行って治療した方がいいと言ったのだけど、母は『娘を精神異常者みたいに扱わないで』とヒステリックに叫んで、病院に行くことはしなかった。

なので、私は失神しないよう、嘔吐しないよう、避けるしか術を知らなかった。

待ち合わせは、都内の有名クラシックホテルのロビーラウンジ。

七階にお洒落なバイキングランチをしているレストランがあると言われたが、人目の多いロビーがいいと私が言った。

ランチを一緒にしたくて電話をしたわけではないので、そこで話せばいいと思っていた。

大きな窓から光が注ぎ、クラシックなBGMとともにホテルの利用客がタクシーを待つ間のひとときや、主婦のお茶会などの賑やかな話声が聞こえてくる。

入り口の一番人の出入りが見える位置で、ホテルの玄関から見える位置で紅茶を飲みながらエントランスを見ていると、タクシーから降りてこちらに走ってくる彼が見えた。

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