とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 単純で一番復讐になるのはこれしかなかった。

 全ての理不尽から自分を守る方法はこれしかない。

「それで、一年経っても貴方に触れたくなかったら、離婚してほしい。でも、祖父の方の代金は請求しないでほしい。どうですか」

 嫌われてしまえばいい。嫌ってくれて構わない。

 自分勝手で我儘で、嫌な女を演じてやろうと思った。

「構わないよ。俺は努力する」

「努力しても無駄です。私は強制されて貴方と結婚するので」

触れないで。

嫌って。

お金はもらう。

全てが嫌い。

単純明快で、馬鹿みたいな原動力。

「華怜さん」

少しだけ彼の声が柔らかく、優しい口調になった。

「一年で、君が俺を好きになれなかったら俺は……」

 何か言いかけたけど、少しだけ躊躇した後、タイミングよく珈琲が彼のテーブルに届けられた。

「続きは?」

「いや、すまない。言わない約束だった」

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