とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
とうとう、ニュースから嫌な言葉が聞えた。

「梅雨に入った」、「例年よりも数日早い」とか。

 台風が近づいてきているとまで、わざわざ丁寧に教えてくださっている。

「苺と林檎、どっちが好き?」

「苺です」

「分かった」

 ワイシャツの上から白いエプロンをした彼が、苺を水で洗いだす。

 私は彼がいるキッチンに背を向けて、憂鬱なテレビを見ていた。

 母と彼の思惑通りに、結納は終わった。

 形式だけと、お見合いするはずだったホテルで急遽顔合わせになり、信じられないことにその場で親たちは和やかに私たちを祝福していた。

 ねつ造して『当時両想いだったが、結果的に離れていた。お互い独身で再び熱が燃え上がった』と馴れ初めを彼が披露したので、当時の事件のことは両家とも水に流して誰も攻めなかった。

 私以外には最初から脚本があったかのように、滞りなく進んでいくので、私はお芝居の中で脚本も知らずただ身を任せてその場を誤魔化すしかない。

 結納の段取りや順番なんて覚えていないが、一番最後に運ばれてきた桜茶だけは塩辛かったのを覚えている。

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