とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 そのままなし崩し的に彼が住むタワーマンションに私は転がり込む形になった。

 私のマンションを引き払うのは来月。

 彼のマンションからは仕事場は遠くなったが、駅を経由せずにバス一本で仕事場に行けるようになって、悔しいが楽にはなった。

 それに約束通り触れてこない。というよりは忙しいのか私が眠るころに帰宅する。

 彼の家に上がり込んで数日、完全に時間が合わなかった。

夜ご飯も申し訳なさそうに「遅くなるからほかで済ませてくる」と私に暗に作るなと言っていたし、朝以外は接点はない。

 ただどんなに遅く帰ってきても、どんなに忙しくても、朝食は一緒に取ってほしいと言われた。

「なるべく俺が作るし」とマイエプロンを見せてくれた。

料理は、家庭教師の影響で自分でも簡単なものは作れるらしい。

今日の朝ご飯は、お洒落に生ハムとアボカドのガレット、きのこのスープ、デザートは苺らしい。毎朝飽きもせずに和食から洋食、甘いパンケーキまで作ってしまう。

よくメニューが枯渇しないな、と少しだけ感心した。

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