とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「ねえ、左の爪の装飾手伝ってもらってもいい?」

休憩時間に美香さんが携帯の液晶画面を見ながら、私に手招きした。

仕事場の材料は白鳥さんに許可書を出せば、一回でどれだけ使おうと一律の金額で使える。

なので一か月に一回ぐらいの頻度でネイルを変える人もいる。

美香さんはそんな人で、他のネイリストがブログに載せているネイルを見ながら右手を装飾していっている。

「そういえば、辻さんってば酷いんだよね」

「辻さんって、ヘアサロンの?」

美香さんの隣に座って、液晶画面のネイルを見る。

梅雨の季節にあわせたのか青で統一したデコレーションで、美香さんにしては少し地味だった。

「そう。辻さんが私のネイル見て、『男にご飯作ったことなさそう』って笑うの。酷くない?」

「でも美香さんは本当ですよね。実家で家事しないって」

「本当はそうでも、実際を知らないのに決めつけるの失礼じゃない? 華怜も相手に料理できないって思われたら腹が立たない?」

< 49 / 205 >

この作品をシェア

pagetop