とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 私と強引に結婚しておきながら、自分はあんな綺麗な女性と切れてなかったのか。

 私より年下かもしれない。あんな女性が居ながら、私なんかと結婚する理由が本当に分からない。

 ただの罪の意識でこんなことをされるのは迷惑だし、彼だってさきほどの美人と結婚した方が楽しい。私みたいに目を見て話さない、エッチさせない、会話もろくに続かない相手より、何千倍も幸せな結婚じゃないの。

 愚かな彼の選択と、なぜ私は走って閉店間際のスーパーで材料を買おうとしたのか分からなくなる。

美香さんみたいに、相手をだた負かしたかっただけなのだとしたら、本当にバカげたことをした。

お肉と魚はトレイのまま冷凍庫にぶちこんで、何も食べる気にもならずに眠ってしまった。



 雨の音と革靴の音、そしてカーテンの向こうが光った気がして目が覚めた。

 確認したくなくて、カーテンから背を向けて携帯を手に持つと、布団の中に潜りこんだ。

 すぐさま天気予報を確認するが、雷のマークはない。

 さきほどの光はただの気のせいだったようだ。

「華怜さん、起きてる?」

 寝室をノックする音を聞き、携帯に視線を落として日付が変わっていることを確認した。

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