とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「騙されることはないです。私、男の人に興味も希望もないし」

「じゃあ男性恐怖症じゃなくてただの男嫌いじゃない?」

「目が合うと怖いとか、話していると体が震えちゃうのに、ですか」

「裏切られるのが怖いってことか。馬鹿だね、恋愛なんて騙しあいっていうのに」

だったら確かに、親が決めた相手だといいね。

自分が決めたわけじゃないし、裏切られても傷は軽いじゃん、自分が選んだ人じゃないし。

辻さんは急に饒舌になった。

でも意味ありげな視線とか、体中を値踏みするような絡む視線じゃなくなったおかげで少し話しやすくなった。

――裏切られるのは怖い。

それが原因で男性と話すのが怖かったのだとしたら、やはり原因は彼で。

その彼と目を見て話せるのはおかしいのかもしれない。

「辻さんで試すのは駄目でした」

「今更じゃん」

クスクス笑いつつ、空になったグラスの氷を揺らして少し溶けた水を飲む。

私がメニューを持ったまま頼まないから、辻さんは氷を飲んでいるようだ。

気を使わせないような振る舞いが上手な人だ。

「私、カシスオレンジ」

「じゃあ俺もそれにしよ。ジンなんてお洒落ぶっても俺も甘いお酒の方が良かったんだよね」

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