とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
煙草もいい?って聞かれて頷くと、テーブルの隅に置かれた灰皿を自分の方へスライドさせた。

吹っ切れたというか、私の前で格好つけるのはやめたようだ。

煙草の火をつける手が、ゴツゴツして男性らしい。

パーツパーツを見るのは平気なのに私はどうして目の前で男の人と話すのが極端に怖かったのか。

「そうだ。結婚してエッチが気持ちよくなかったらショックじゃね? そんときは俺で試してみなよ」

「そーゆう話はあまり好きじゃないです」

「でも華怜ちゃんって婚前交渉絶対しないでしょ。相性最悪だったら、可哀そう」

「余計なお世話です」

 それに愛がある結婚ではないので、セックスはしない。

 この先、私はしない。

「あれー? 普通に話してるじゃん。やっぱ恐怖症克服?」

タイミングよく帰ってきた美香さんは、私と辻さんを交互に見る。

辻さんは灰皿を持ったまま、向かいの席に移ると美香さんが隣に座った。

「自分に気がある人が怖いみたいよ。饅頭怖いみたいな」

「いや、意味わからない」

「俺は眼中にないって。だから俺もフェロモン抑えたら、会話ができた」

「私にはもっとフェロモン出して」

ふふふとしなだれかかる美香さんに、髪を撫でてあげながら携帯を見だした。

辻さんはもう警戒するに値する人ではないと思う。

ここまで露骨に私に素を見せてくるんだから。

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