とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「地球のどこかです」

『……華怜』

迎えにいくよって言われて、素直に言えるわけない。

だって仕事終わって家にいるんでしょ。

朝食は一緒に食べるけど、夜は私が先に眠っていてすれ違ってるのに。

一番に理由は、いつもの柔らかい声が低く怖い気がしたこと。

「大丈夫です。タクシーを使えばすぐに」

「駅前の美味しいピザとパスタが食べれるお店だよ」

「辻さん!」

屈んで受話器に向かって大声で言われ、次の瞬間、電話は切られてしまった。

やばい。一応は婚約? いや婚約未満? 半強制的に旦那になる相手なのに。

「あの、駅まで帰ります」

「BARって言ったら機嫌悪くなるだろうし、一階のパスタ屋の名前を出しときなよ」

「……はあ」

この人っていい人なのかな。悪い人なのかな。

もっとねっとりした視線の時の方が、何を考えているのか分かった分、警戒できたのに。

今は何を考えているのか全く理解できない。

「信用しなくていいんだよ、男なんて」

おまけにエスパーだ。
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