とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「結婚する男以外は信じなくていいよ。ママも美香ちゃんも俺が送るから安心して帰りな」

「ありがとうございます」

辻さんが飲み会に来るってだけで嫌な気持ちだったのに、今は違う。

先入観。いや、自分の色眼鏡で男は全部、敵って思っていたせいで、私は彼に対して失礼な気持ちを抱ていたようだ。

「辻くーん。床の色が汚いんだけど、あーた、何してんのよー」

「何もしてないよ、ママ、お水飲んだの?」

「もう、仕方ないわね。ワインで赤色の床にしちゃうわ」

その瞬間、一本数万するらしい赤ワインが床の上に流れた。

ゲラゲラと笑うオーナーと叫ぶ牧さんと美香さん。

辻さんと私でモップと雑巾をもって、ワインが跳ねた壁やソファ、床を徹底的に拭き上げた時、また着信が鳴った。

『着いたよ』と。
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