とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 ネオン輝く繫華街。なんてうたい文句が飛び出してきそうな夜の街。
お洒落なパスタ屋のお店前、待機列ように用意された壁際のベンチ。

そこにジャケットに手を突っ込み、足を組み替える恐ろしく顔の整った男が――。

「パスタ屋じゃなかったの?」

「このビルすべてがパスタ屋のオーナーのお店らしくて」

あはは、と笑ったが目の前の男は全く笑わない。

「焦った」

「ん?」

「華怜さんは男性が苦手だろうから、ぽっと出の男に取られることはないだろうと油断していた」

はあ、とため息を吐くと項垂れている。

どうやら、不機嫌なのではなくちょっと凹んでいる?

この人、目の前にいるのに感情が分からない。

「私、貴方と普通に話せたから男性恐怖症が治ったのかなって、他の人で試してみたというか」

「試さないで」

立ち上がった彼は私に近づいてくると、目のまで立ち止まり私を見降ろした。

「ほかの男で試さないで」

見下ろす瞳に感情は見えないのに、息をするのも忘れるぐらい心を奪われた。

「試すなら、俺だけにしてほしい」

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