とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
不器用な言い方。

いや、言葉を選んで慎重に話し出してくれている。

私のために、私に響くために。

「強引で強制で、君に拒否権がなかったのは一生かけて謝るからさ」

「……はあ」

「俺で試して。怖くないなら、触れていい? 強引にせめていくよ」

近づいてくる。

でもやっぱり辻さんみたいなねっとりした視線はなく、スマートに私の手を握ってきた。

「え……手?」

「中学生ぐらいの体験からスタートしとくか、と」

「今時の中学生よりピュアだと思います」

私の淑女のための女子中学校だって、クラスに数人は性交渉を済ませていた子はいる。

「性交渉してきたらルール違反ですからね」

「せ……セックスって言ってよ。まだ俺もいいよ。そこまで無理やりはしたくない。でも心は狭い。隙間なく並べられた本の隙間もないぐらい心は狭い」

「分かりましたって。もう試しませんよ」

否定しないとずっと言ってきそう。この人、こんな子どもっぽい一面も隠さないんだね。

手を繋いでパーキングまで歩くが、すれ違う人々には恋人だと思われているのか誰一人気にされることもない。

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