とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「あんた、結婚するの?」

白鳥さんが、私の顔を見るや否やそう告げてきた。

「ええー?」

「最近、店にしつこく来てたイケメンと手を繋いで帰ったと。美香ちゃんが言いふらす前にちゃんと説明しときな、ほれ」

美香さん、昨日酔っぱらってたんじゃなかったの。ちゃんと見てたのか。

驚きつつも、控室のソファに座ってにやにやこちらを見ている美香さんは悪い顔をしている。

「朝起きたら、髭が伸びた雄みたいなママと抱き合ってラブホにいたのよ? この嬉しくない展開は、貴方ですっきりさせてもらう」

「ううー。昨日の人は、親が決めた婚約者で今は、お試し期間みたいな」

一応、拒否権はないし、私は頭に血が上りカッとなって名前も印鑑も押している状況だ。

「じゃあ彼が、男性恐怖症が治った張本人?」

「でも何か大きなきっかけがあったから直ったわけじゃなく、なぜか気づいたら彼は平気で、でも辻さんも平気で」

「辻は駄目」

「辻さんはやめといて」

白鳥さんと美香さんが同時に辻さんを否定した。

美香さんは自分が狙うからだとしても、白鳥さんはあいつは駄目だという意味だと思う。
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