とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
ドアの外に傘を立てかけて、玄関に足を一歩踏み入れてから気づく。

足から滴る水。その場でストッキングを脱いで一歩歩くが、床を濡らすのには変わりなさそうだった。

下着まで濡れてしまった冷えた体で、脱衣所まで走っていき、滴るジャケットとワンピースを脱いでから、廊下を雑巾で拭いた。

下着姿で廊下を拭く。

こんなこと、彼が居たらできなかったであろう。

早く帰れてよかった。

でもやっぱ一人ぐらしじゃないとそれは気を使うなあ。

彼も下着姿でうろうろしないし、自由がなくなったんじゃ――。

カッとカーテンの向こうがフレッシュを炊いたように光ったので思考が止まった。

今、自分が何を考えていたのかなんて、数秒遅れて聞えてきた雷の音にかき消された。

「ひいいい」

雷は嫌いだ。下手すれば、彼に切られた髪よりもトラウマに違いない。

また空が光ったので、リビングから逃げてお風呂場に逃げ込んだ。

シャワーで雨を流して、そしてベットに逃げ込んで、ヘッドフォンで音楽を聴きながら布団の中で丸くなれば大丈夫だ。大丈夫だ。
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