とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「行かない。行きません、行かないです――っ」

それでも雷は止まず、降り続ける。

目の前で木に落下したときの、地面にびりびりと響く雷。

目で追えないほどの速さで光って落ちてくる稲妻に、避けれるわけはなかった。

「何もしないから、震えてる華怜さんを抱きしめさせて」

肩は濡れて冷たかった。

それなのに強引に引き寄せてきた彼の手は熱くて、抱きしめてくれた体温は温かくて、他人の心音が聞えてくるのがとても安心してしまった。

怖かったんじゃないの。

憎かったんじゃないの。

雷を理由に、なんで抱きしめられて、なんで抵抗しないの。

「大丈夫。大丈夫だよ」

抱きしめられた。

引き寄せられて抱きしめられて、彼の匂いに包まれていく。

抵抗できない自分が、抵抗できない弱くて口だけの自分が大嫌い。

トラウマの犯人に抱きしめられて安心してしまう弱い自分なんて大嫌いだった。
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