とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「いや、やっぱちょっと駄目だ。華怜さん、良い匂いがする」

「……はい?」

「ホラー映画でも見よう。すっげ怖い奴」

 彼は私を片手で引き寄せたままソファに座ると、突然リモコンを操作して映画を物色し出した。

なぜ今、ホラー映画? そして腰を引き寄せるこの手はなに。

 色々悩んでぐるぐるしていたけど、やはり彼の手は怖くない。

 怖くないのだけど、今、引き寄せられているのは何か違う気がする。

「お、これこれ。怖いって聞いてたんだ。ヘッドフォンで聞こうか」

ワイヤレスイヤホンを耳に装着してくれた。これで窓に背を向け、彼が隣にいてくれると確かに少し気がまぎれる。

「でも、私どうせ見るならホラーじゃないほうが」

「駄目。今、隣のいい匂いがする好きな人を守るために無心になりたい。怖がる女性をこの隙に押し倒すような男は、信用できないだろ?」

なんと答えていいのだろうか。

つまりこの人は、お風呂上がりの私が隣にいるのが落ち着かないので、ホラー映画で気を紛らわすと言いたいのか。

さっきまでの、心地の良い強引な引き寄せとか抱きしめてくれた甘さが嘘のよう。

でも確かに甘い雰囲気に流されて、押し倒されても困る。

「ホラーは大丈夫だけど、スプラッタは無理だからね」

「分かった」
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