クチスイ
私の中のピンク色の壁。
毎度、湊(ミナト)を出迎えて、
夜が深くなると彼は私の上でもたれて眠る。
海と夜景の見えるブルーの小窓。
夜が更けると私の素肌と彼の素肌が重なり、
その小窓に映り込む。その小窓を眺めエクスタシーを感じてしまう。そのたび私はからっぽになれるのだ。昨晩はどの女が、この小窓を見つめオーガズムを感じたのだろう。
滑らかで少し太い指を、優しく私の素肌に滑らせる。その事になんの疑問も戸惑いも今までなかった。身体の交わりなく男と付き合ったことは一度もない。
今日も彼は当たり前のように私の作った薄味の炊き込みご飯をかきこむ。
真顔で、無言で食べるが、御馳走、おいしかったよと言ってからおかってに茶碗を置く。
私にとってそれは当たり前だったし、空腹を満たした彼を体で癒すのも当たり前だった。
しっとりと濡れた髪をかきあげて、眠る湊を横目に私はこっそりサイドチェストを開ける。
『一昨日は5つあったのに』
彼に聞こえない小さく細い声で、呟く。
いつ開封したか覚えてもないソレが、悲しそうにゴミ箱に堕ちていた。
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