眠姫にキスを。
アレからすぐテスト期間になり先輩とは会わなくなった。
部活動も中止になっているので、生徒達は直ぐに帰って行く。
「司!司!起きなさいってば!」
何気なく図書質に寄ると、司先輩とよく一緒にいる久保田先輩が、必死に司先輩を起こしていた。
メガネをかけた長身の美人。
俺より少し小さいくらいくらい……何cmかは聞いた事ないから分からない。
「あ、桜木くんちょうどよかった!起こすの手伝ってくれない?」
久保田先輩は凄い疲れた顔をしてズレたメガネを上げる。
図書室に入り、司先輩は机にうつ伏せになって寝ていた。
「いつから起こしてるんです?」
「かれこれ20分よ。ぜーんぜん起きないのよこれが。この子を起こすのホント大変。力がいるのよねぇ。」
頭をべしべし叩かれているにも関わらず司先輩は全く起きる気配がない。
っと言っても軽くだ。
思いっきり叩いているわけではない。
「私、ちょっとお手伝い行ってくるから起こしててくれない?」
「はい。」
パタパタと小走りで図書室からでるメガネ先輩を見送り、司先輩をみる。
……綺麗な寝顔だ。
……あのキスを思い出す。
あの時はたまたま偶然起きたんだと思った。
けど……。
すみません。とか、起こすだけです。とか、いろいろ心の中で言い訳しながら、ゆっくりと唇を重ねた。
「……ん。」
唇を離すと直ぐに司先輩はゆっくりと目を開いた。
お、起きた……。
偶然……じゃないよな?
驚きと喜びが混じりあって感情かめちゃめちゃだ。
なるべく顔に出さない様に気をつけて司先輩に笑いかけた。
「おはようございます。司先輩。」
「……あ、うん。また起こしてくれたんだね。桜木くん。」
司先輩はキョロキョロ周りを見渡した。
「久保田先輩なら今トイレですよ?」
「あぁそうなの。」
しばらくすると久保田先輩が戻ってきた。
起きてる司先輩を見て驚愕した。
「ごめん菜々緒。私寝ちゃてて。」
「桜木くん!あんたどうやって起こしたの?」
司先輩を無視して俺に問い詰めて来た。
「普通に起しましたよ?」
すました顔で言う俺を見て久保田先輩は憮然とした顔をする。
「どうたの?」
俺と久保田先輩を交互に見てキョトンとする司先輩。
……ホントのことは言えねぇよ。
キスしたら起きましたなんて。
久保田先輩は何か言いたげな様子を見せるものの何も聞いてこなかった。
寝起きの悪い彼女を起こすのは至難の業。
でもキスをしたらパチっと目を開けるんだ。
……他の誰でもなく……俺のキスで……。
「今日も弁当ありがとうございます先輩。」
「どう?味は?」
「すんげー美味いです。いつもですけど。」
昼休み司先輩と食堂で一緒に食べる。
俺は一人暮らしだから以前まではコンビニで済ませることが多かった。
付き合い始めて、司先輩俺を思って毎日手作り弁当を作ってくれて、家に来てご飯作りに来てくれる。
いつもモノトーンに見える家の中は司先輩がいると色付く。
ずっとここにいればいいのに。
自然と目が合い抱きしめ合ってキスをする。
先輩とのキスは気持ちいい。
必死に俺にしがみついて可愛い。
初めて一つになったときどうかなりそうだった。
気持ち良すぎて。
そして彼女は初めてだったから尚更嬉しかった。
俺も初めてだから。
何もかも互いに初めて。
こんなに嬉しいことはない。
その日は離れたくなくてずっとくっついいたままで過ごした。
さすがにトイレは別行動だけど。
司先輩との初めてを思い返していると
「俺等もいるの忘れんなよ?」
「二人の世界にならないで。少しは自重しようよ。」
食堂で買ったパンをもちゃもちゃ食べながら指摘する男女。
…………あぁこのカップルもいたんだった。
健一と久保田先輩。
たまにこうして4人で同じテーブル席について食べることがある。
「ごめんね。私、料理下手でさ。」
「気にしなくていいですよ。ありのままの菜々緒先輩が好きですから。」
「……健一くん。」
…………お前等だって自分等の世界入ってんじゃねぇか。
ほら、司先輩が苦笑いしてっぞ。