千紘さんのありがた~いお話
 


 幸い、帰ったときにはまだ千紘の車はなく、玄関先まで鉢を抱えてきてくれた龍平に、
「お茶でもどう?」
と言ったのだが、いや、いい、と言う。

「そうか、もう晩ご飯ね。
 じゃあ、これ、あげる」
とポテトチップスサラダにしようと思っていた大きなコンソメポテチの袋を渡した。

「漫画も貸してくれてありがとう」
と言うと、龍平は、チラと玄関を見、

「真昼さんち、表札出してないんだね」
と言う。

「ああ、ちひ……旦那様が表札は出すな、襲撃を受けるかもしれないからって」
とうっかり言って、

「襲撃?」
と訊き返される。

 は、しまった。

 生徒からのお礼参りの襲撃なのだが、そんな話、生徒さんにしてもいいのだろうか、と思って、にまっと笑ってごまかした。

 いや、ごまかせたのかは知らないが……。
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