千紘さんのありがた~いお話
 



「おかえりなさいー」
とそのあと帰ってきた千紘を出迎えた真昼は、

「見てくださいっ。
 私の野望の第一歩ですっ」
とベランダを見せる。

「……野望?」
と胡散臭げに言いながら、千紘はカーテンを開けたままのベランダを見た。

 そこには、レモンの木がちょこんと置かれている。

「どんな野望だ」

「此処を坪庭みたいにしたいんですよー」

「……レモンだぞ、これ。
 坪庭というと、京都の町家のイメージなんだが」
と言ったあとで、千紘はベランダを開けて、レモンの木を見ながら、

「大丈夫なのか?
 こんな細い木で。

 小さいし、しばらく実はならないんじゃないのか?」
とケチをつけてくる。

 先生、生徒の自主性を重んじ、褒めて伸ばしてください……、と思いながら、真昼は鍋つかみをつかんだまま、千紘の側に行った。
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