千紘さんのありがた~いお話
 


 全部気のせいだといいな。

 この町を出てくとか。

 千紘さんが私に、お前の役目は終わった、ははははって言うとか。

 そんなことを思いながら、
「千紘さんっ」
と千紘の背に向かい、呼びかけたとき、目の前をカニが横切った。

 避けようとして、つまづく。

 カニめっ、と思ったが、
「真昼っ」
と気づいた千紘が抱きとめてくれた。

 カニよっ、と思う。

 ありがとう、カニ。

 そう思ったとき、ふわっと千紘の匂いがした。

 自分と同じ洗剤や石鹸を使っているはずなのに、やっぱり、なにかが違っていた。

 好きだなあ、と思う。

 私、やっぱり、千紘さんが好きみたいだなあ、と。
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