千紘さんのありがた~いお話
 



 真昼は鍋を見つめて言った。

「……なんで偽装結婚なんて引き受けてしまったんでしょうね」

 最初は、周りから、結婚しろと、さんざん言われていたところに、千紘さんに偽装結婚の話を持ちかけられて。

 仕事が忙しくて、寝不足だったから、判断能力が落ちていて、うっかり受けてしまったんだと思っていた。

 でも、きっと違った。

 私、最初から、千紘さんが気に入ってたんだな、と真昼は思う。

 ……まあ、第一印象から、ちょっと変わった人だなとは思っていたけど。

 他の人に、偽装結婚しようって言われても、絶対、受けない気がするし。
 
 戸惑いながら始まった此処での生活だったけど。

 去る今となっては、なにもかもが懐かしい。

「今でも、油揚げは上手くダシに沈んでくれないですけどね……」
と呟いて、

「突然、なんの話だ……」
と言われる。
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