極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
そこまで聞いた実乃里は、三本目の煙草を吸い始めた杉谷を、呆気に取られて見つめる。

(途中までは不良少年を心配して世話を焼く、素敵な警察官だと思ったのに、俺に手柄を取らせろって……)


かつての龍司に言ったことは、口だけではないのだろう。

現に今の龍司は杉谷の部下として、危険な潜入捜査を五年もさせられているのだから。

杉谷がいい人なのか、ずるい人なのか、実乃里は判断に悩む。

だが、結果としては龍司が正しい道に進めたので良かったのかもしれない。


杉谷が言うには、不良グループから抜けた龍司は杉谷の家で生活しながら勉強して高卒の資格を取り、それから警察学校に入学したそうだ。

その間の生活費、入学してからの教科書代などは全て杉谷が面倒をみてくれた。

その面倒見の範囲は、金銭的なことだけではないだろう。

非行歴のある者は警察学校に合格するのは難しいと思われるが、龍司が入学できたのはおそらく杉谷の口添えがあったからに違いない。


(龍司さんに、そんな過去があったなんて……)


家族から愛情を与えられずに育ち、荒れた少年時代を送った龍司に、実乃里は同情していた。

杉谷に救われたといっても、生きる目的が上司に手柄を取らせることだなんて、寂しいとも思う。

龍司自身が望むこと、やりたいことはないのだろうか……そう考えた実乃里の頭に浮かんだのは、『胡椒とマスタード抜きで』と龍司が注文する卵サンドである。

実乃里の作る卵サンドはよほど彼の口に合うらしく、来店するたびに必ず注文してくれる。

卵サンドに関しては間違いなく、龍司の自由意志で選んだ、彼の好むものであろう。


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