極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
きっと龍司は、毎日気を張っているのだろう。

ロイヤルに来店した彼はいつも気怠げで、それは極道に囲まれた事務所内での緊張の反動かもしれない。

ひとりで卵サンドを食べている時間が、ほんの束の間の休息なのではないか……そう考えた実乃里は龍司を気の毒に思う。


(早く任務が終わればいいよね。でもそうしたら……龍司さんは私の前からいなくなっちゃうのかな。それは困る。組長逮捕となる前に、龍司さんの連絡先を聞いておかないと……)


一尾が車をバックさせ、事務所の車庫にしまっていた。

門は閉じられ、龍司や他の極道たちは組長の屋敷内に入ってしまった。

差し入れを直接渡すことができず、がっかりした実乃里が諦めて引き返そうとしたら、門の横の引き戸が開いて龍司がひとりで出てきた。


彼は実乃里がまだ佇んでいることに気づいている様子だが、声をかけてくれることはなく、傘をささずに雨の中を事務所に向かっている。

無視されてたまるかと気合いを入れた実乃里は、道を渡って龍司に駆け寄る。

外階段の二段目に足をかけている彼に、「龍司さん」と呼びかければ振り向いてくれたが、迷惑顔をされる。


「これ、差し入れです」

「いらん」

「そんなこと言わずにもらってください。卵サンドも入ってますよ。胡椒とマスタードは抜いてあります」


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