極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
実乃里は先ほどの、組事務所前で龍司にガキだと言われたことを話した。

大人の女性として意識されないことには、恋愛対象にさえしてもらえないということも。


「お願いします。私を色っぽい大人の女性に変身させてください」

「そうねぇ……」


深雪ママは顎に人差し指を添えて考えてから、ある提案をしてくれる。


「うちでアルバイトしてみる? 先週、女の子がひとり辞めちゃって、ちょうど募集中なのよ。メイクも教えてあげられるし、接客していたら自然と色気が身につくわ。ロイヤルが終わってからでいいわよ」


実乃里はロイヤルで、早朝から十九時まで働いている。

休憩はモーニングが終わった後の二時間のみ。後はほぼ立ちっぱなしだ。

スナックのアルバイトを追加すると、過労死ラインの労働時間となってしまう。

それでも実乃里はパッと顔を輝かせ、「ぜひお願いします」と頭を下げた。


深雪ママは感心したようなため息をつき、羨ましげな目を実乃里に向ける。


「純粋で意欲的ね。私にも恋に夢中な時があったのよ。もう遠い昔の話になってしまったけれど。若いっていいわね」


コーヒーを飲み終えた深雪ママは席を立つ。

スナックでのアルバイトは早速今日からという約束を交わし、甘い香りを残してロイヤルを出ていった。


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