極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
スケベな客、会社でのストレスを発散するが如くホステスに説教する客、陽気に楽しんでいるのはいいが同じ自慢話を永遠と繰り返す客など、ロイヤルとは違って酔客の相手はなかなか大変である。

深雪ママをはじめ、店内にいる他の四人のホステスのお姉さんたちは慣れた様子で客あしらいが上手だが、実乃里は慌てたり苛立ったりと、真正面から客に向き合ってしまう。

それにストレスを感じていた。


(ホステスという職業は、私に向かないみたい。でも龍司さんに子供扱いされたくないから、もう少し頑張って女磨きしなくちゃ……)


寄せて上げた胸に、酔っ払いの手が伸びてきて、バチンと音がなるほど思い切り叩き落としてしまった実乃里は、「あら、ごめんなさい。ウフッ」と笑ってごまかした。

すると、「実乃里ちゃん、こっち来て」と深雪ママに呼ばれた。

今日も色気がムンムンと溢れ出ている深雪ママは着物姿で、カウンターの裏にいる。

実乃里が持ってきたロイヤルのピザを、芋焼酎で楽しんでいる常連客の接客をしているようだ。


視線が合った実乃里は首をすくめる。

客の手を叩き落とした行為を、叱られると思ったからだ。

「ちょっと失礼します」と席を立ち、眉を下げてカウンター裏へ。

「すみませんでした」と先手を打って謝れば、深雪ママに首を傾げられる。

どうやら注意するために実乃里を呼び寄せたわけではないようで、深雪ママの手にはスマホが握られていた。


「待ってるわね」

そう言って電話を終えた深雪ママは、楽しい企み事をしているような笑顔を浮かべる。


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