極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
夫婦の会話にカウンター席の客が笑う。

どうやら常連客は皆、ここが猿亘組に関係の深い店であると知っているらしい。

組員もたまに客として訪れるのだろう。

若頭の来店に、恐れをなして席を立とうとする客はひとりもいなかった。


深雪ママは実乃里の頭をチョンチョンと突き、立ってもいいと合図する。

ボックス席の方に背を向けて立ち上がった実乃里は、肩越しにそっと振り返る。


龍司は黒いワイシャツに同色のジャケットを
羽織った姿で、添島という男とL字形のボックスシートに腰掛けたところだ。

彼は実乃里に気づいておらず、いつも通りのクールな表情の中に、無理やり誘われ仕方なく来たといった雰囲気を滲ませていた。

添島の方は妻から企み事を聞かされているため、カウンターの実乃里を見てニヤリとしている。

その顔に実乃里は、見覚えがあった。


先週、実乃里が差し入れを手に組事務所を訪ねた時に、組長の屋敷前にいた男たちの中のひとりだ。

年齢は四十代後半くらいだろうか。

大柄で中肉、スキンヘッドに眉なしという、いかにも極道といった強面の風貌である。

どうやら深雪ママの男性の好みは、実乃里とは全く違うようだ。


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