極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
がっかりと肩を落とし、そんな日もあると思い込もうとした実乃里だが、もう八日も顔を見ていないので会いたさが募っていた。

元から忙しそうではあったが、最近は多忙を極めているらしく、モーニングにもランチにも現れないし、差し入れを手に押しかけても不在と言われる日々が続いていた。


(刑事と若頭、どっちの仕事が忙しいんだろう……)


決して口にできない疑問を心の中で呟いた実乃里は、一尾に会釈した。

「お手数かけました。龍司さんがいないのなら、出直すということでーー」

そう言いながら背を向ければ、肩を掴まれ引き止められる。


「おいおい、姉ちゃん。俺とお前の仲なのに、つれないんじゃないか?」

「ええと、どのような仲でしたっけ?」

「差し入れる側と、それを食う側の仲だ。いつも悪いな。今日は茶ぐらい出してやるから、上がっていけよ。若頭ももうすぐ帰るだろうしな」


実乃里が差し入れを渡さずに帰ろうとしたから、一尾は事務所に上がれと言ったのだろう。

龍司の帰りが、もうすぐなのかどうかは怪しいところだが、会いたくてたまらない実乃里としては断らずに玄関に足を踏み入れた。


(仕事中に抜けさせてもらったから、長居はできないけど、ちょっとだけ……)
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