極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「冗談を真に受けるなよ」

薄く笑った斑目が、実乃里に言った。

続けて前を向いたまま、「それでお前は、どこになにしに行ってたんだ?」と龍司に問いかける。


「報告する義務はない」

「俺はお前の兄貴分だぞ」

「ろくでもない兄はいらない。俺が慕うのは組長と八田部さんだけだ」

「八田部が捕まったのは、誰かが垂れ込んだせいだよな。裏切り者は誰だ? 教えてくれよ、若頭よ。八田部が消えて得するのは、誰なんだろうなぁ」


八田部は前の若頭で、今現在は刑に服していると、刑事の杉谷が以前、ロイヤルで話していた。

自分が若頭に出世したいがために、龍司が八田部を警察に売ったと、斑目は思っているようだ。

八田部を逮捕したのは杉谷で、そのために必要な証拠を集めたのは龍司。それは間違いないだろう。

けれども龍司は、若頭になりたくてそうしたわけではない。潜入捜査官なのだから。


斑目の推測は当たらずも遠からず、といったところだろうか。

潜入捜査官だとは少しも気づかれていないようで、実乃里は顔に出さないよう、心の中でホッと息をついた。

けれども隣には斑目がいるので、緊張を解くことはできずにいる。

龍司がドアから背を離し、ポケットに片手を入れ、ゆっくりとした足取りでソファに近づいてくる。


「疑うのなら、勝手に調べろ。ただし素人を使うのは、なしだ」


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