極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
アパートは、築三十年ほどで外階段のある二階建てだ。

中の間取りは1Kで、浴室に小さな洗面台とトイレが付いている、使い勝手の悪い部屋である。

もっと広くて綺麗な所に住みたくても、夢のために貯金しなければならないので、我慢するしかない。


暗がりの中、足音に気をつけて鉄階段を上り、自宅のドア前へ。

鍵を出そうとして、実乃里はやっと気づいた。

ハンドバッグを車内に置き忘れてしまったことを。

おそらく落とした時に拾い忘れて、シートの下にあるはずだ。

慌てて道路の方に振り向いたが、既にタクシーは走り出しており、テイルライトの明かりは道を曲がって消えてしまった。


「ど、どうしよう。そうだ、タクシー会社に電話を……ああっ、スマホもバッグの中だ。部屋の鍵も……」


持っていた紙袋が、手から滑り落ちた。

忘れるならパンにしろと、自分を叱りたくなる。

タクシー会社への連絡手段を考えた実乃里は、アパートを出て、人気のない夜道を三分ほど歩く。

そこにはコンビニエンスストアがあり、店の前に公衆電話もあることを知っているからだ。


(公衆電話を使うのって、いつぶりだろう……)


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