極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
まだスマホを持たせてもらえなかった中学生の頃に、駅の公衆電話を使った記憶がある。

その時以来ではないかと思いつつ、公衆電話の存在に感謝して、電話帳で調べたタクシー会社に電話をかけた。

対応してくれた女性に事情を話せば、すぐに乗車したタクシーを調べ出してくれて、無線で運転手に連絡を取ってくれた。

けれどもその後に、《お客様、大変申し訳ありませんが……》と言われてしまう。


実乃里を降車させた後にあのタクシーは、近くの繁華街で別の客を乗せたそうだ。

その客の行き先はなんと、宇都宮。

片道三時間弱もかかる長距離の旅に出てしまったという。

忘れ物がタクシー会社に届くのは、早くても明日の八時頃だろうと言われてしまい、実乃里は愕然とした。


(宇都宮までタクシーを使うなんて、どこの富豪よ……)


文句を言ったところでどうにもならないのはわかるので、明日の午前中にタクシー会社に忘れ物を取りに行くと伝えて、実乃里は受話器を置いた。

ため息をつき、トボトボと歩きだす。


(ついてない。今日の夕方までは、いい日だと思ってたのにな……)


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