極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
思い浮かべたのは、龍司の顔である。

多忙であった仕事が一段落した彼は、約束通りロイヤルに通ってきてくれる。

今日はモーニングにひとりで訪れ、ランチタイムが終わろうとしている頃に、一尾たちと四人でまた来てくれた。

一日に二度の来店は初めてで、舞い上がった実乃里は、楽しく張り切った半日を過ごしたのだ。


(いいことがあれば、悪いこともあるということかな。人生、うまくできてるね……)


心の中で恨み言を呟いて、足を西へと向ける。

十分ほど歩けば、繁華街に出る。

財布に入っているのは現金が三千円ほどで、クレジットカードは別に保管してあり、それもハンドバッグの中だ。

ホテルに泊まるお金はないが、ネットカフェか二十四時間営業のファミレスで朝まで過ごそうと考えていた。


風は強く、凍えそうである。

動きやすいカジュアルなズボンと薄手のセーターの上には、丈が短めのキャメルのピーコートを着ている。

マフラーや帽子、手袋はない。

冬の夜の寒さが骨身に染みてつらくなってきたら、さらに悪いことに雨まで降り出し、凍死するのではないかという命の危機まで感じてしまった。


小走りに繁華街にたどり着いた実乃里は、目に付いたネットカフェに飛び込んだが……残念なことに、店員に満席だと言われてしまう。

百メートル先にもう一軒あると教えてくれたので、縋る思いでそこまで走ったけれど、前の店と同じことを言われてしまった。


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