極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
それから二十分ほどが経ち、実乃里はギラギラと太陽が照りつけるアスファルトの道を歩いている。

ピザの注文が入った時に、『実乃里ちゃんは食べていて』と言ってくれたマスターであったが、あれは気遣いではなかったようだ。

朝食を食べ終えた実乃里に渡されたのは、焼き立てのピザが入ったテイクアウト用の紙箱三つで、配達を頼まれてしまった。

マスター夫妻は今頃、涼しい店内で、ゆっくりと朝食の続きを楽しんでいることだろう。


(休憩時間は時給が発生しない契約なんだけど、もしやこれはボランティア……?)


納得しかねる点はあるが、取りあえず配達を済ませてしまおうと、実乃里は渡された手書きのメモを確認する。

そこには住所と“猿亘(さわたり)様”という名前が記されており、簡単な地図も添えられていた。

喫茶ロイヤルから二本東側に入った、車線のない道沿いだ。

直線距離では三十メートルも離れておらず、ごちゃごちゃと入り組んだ下町であっても、迷いようのない近所である。


「あった、ここだ」


独り言を呟いた実乃里は、立派な和風の門構えの屋敷の前で足を止めた。

表札には“猿亘慶造(けいぞう)”と書かれている。

ぴったりと閉じた門の内側は見えないが、塀の上部に松や紅葉の枝葉、厳しい顔をした鬼瓦が見え、まるで時代劇に出てくる大名屋敷のようだ。


< 15 / 213 >

この作品をシェア

pagetop