極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
単純な実乃里は落ち込みから一転して、もじもじと身をよじって喜ぶ。

一尾は「そっすね」と困り顔で同意し、「拾った責任を持って連れ帰ります。部屋、きたねーけど」と実乃里の左手首を掴んだ。


(え、それは私が嫌……)


実乃里が拒絶感を顔にありありと表してしまったら、龍司に右腕を引っ張られ、手首から一尾の手が外れた。

そのままつんのめるように前に出て、龍司の片腕に正面から抱かれる。


「龍司さん……?」

見上げれば、彼の涼やかな瞳が幅を狭め、微かな不機嫌さをにじませて一尾を映していた。


「一尾は帰っていい。実乃里は俺の家に泊める」

「へ? あ、あー、そっすね。すみません。後はよろしくお願いします」


一尾は首を右に左に傾げている。

龍司がそこまで実乃里にしてやる理由が、わからないと言いたげだ。

一尾の疑問は解けないまま、「それじゃ失礼します」と玄関ドアを開け、雨の中にでていく。

ふたりきりになった玄関先で、実乃里は驚きの中、半開きの口で龍司の端正な顔を見上げていた。


(龍司さんの家に泊まれるなんて……これは夢? 目が覚めたら、街角で倒れて凍死寸前ってことはないよね?)


実乃里が現実を信じられないほどに喜んでいるとは、おそらく龍司は気づいていない。

「ここで待ってろ」と廊下を引き返していった彼は、黒いコートと車の鍵を手にすぐ戻ってきた。


「その濡れたコートを脱いで、俺のを着ろ」

龍司はそう言って黒いコートを渡そうとするが、実乃里はまだ夢見心地でぼんやりしており、受け取れずにいる。


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