極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
「龍司さん、私をーー」

ストレートに『抱いてください』と頼もうとしたのだが、続きの言葉が出てこない。

これまでの人生で一度も口にしたことのないその台詞は、想像よりも遥かに言い難いものだった。


自分の鼓動を耳の奥で聞き、汗ばむほどに顔も体も熱くなる。

キッチンから訝しげな視線を向けられ、実乃里は慌てた。


「あ、あの、暑いですね」

そう言ってごまかせば、龍司は机に歩み寄り、机上のリモコンを手にして無言でエアコンを切った。


「寝るぞ、夜が明けちまう」

「は、はい……」


一度言葉を飲み込んでしまうと、勇気もしぼむ。

(どうしよう。このままじゃ、普通に寝て朝を迎える展開だ。言えないなら……脱ぐ? ワイシャツを脱いで下着姿を見せれば、誘惑できる?)


真っ赤な顔で真剣に解決策を練る実乃里だが、「ベッドを使え」と淡白に言われ、電気を消されてしまった。

暗くては、たとえ脱いでも下着を見せられない。

パイプのフレームにマットレスを置いただけのシンプルなベッドに腰を下ろした実乃里は、「あの」と声をかける。


「私、真っ暗だと眠れないんです」


嘘をついて明かりを求めれば、龍司に舌打ちされてしまったが、机上のスタンドライトを灯してくれた。

彼は薄手の毛布一枚を羽織るようにして、ベッドの横の床に、実乃里に背を向けて横たわる。

絨毯はなく、フローリングの上に直接なので、寒くて痛そうだ。

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