極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
驚きのあまりに実乃里は顔を逸らし、龍司の胸を押して拒否してしまう。

すると、実乃里の後ろ髪に彼の右手が潜り込んで鷲掴み、彼の左手は抵抗する細腕を捕まえた。


「やってほしかったんだろ? 逃げずに口を開けろ」


ゾクリとするような色なある声で命じられ、強引に押し当てられた唇から、彼の舌先が実乃里の中に潜り込んでくる。

煙草とコーヒーの香りがする大人のキスに、実乃里は激しく翻弄され、呼吸するだけで精一杯である。

喜ぶことはおろか、龍司がなぜ突然その気になったのかなど、考える余裕もなかった。


荒っぽく強引なキスは一分ほども続いて、やがて唇が離される。

実乃里の体の拘束を解いた龍司は、親指の腹で濡れた唇を拭っている。

実乃里は全力疾走した後のように肩で呼吸を繰り返し、潤む瞳に真顔の龍司を映していた。

脳に酸素が供給されると、やっと喜びが湧いて、恋人へのステップを一段上がることができたような心持ちになる。


(私を恋愛対象に入れてくれたんだよね? こんなにすごいキスをしてくれたんだもの……)

ところが、それまで溢れさせていた色気をすっと消した龍司は、「これでいいか?」と素っ気ない声で聞いてくる。


「え……?」

「満足したら寝てくれ。お前が起きていると、俺も眠れない」


< 166 / 213 >

この作品をシェア

pagetop