極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
斑目と聞いて、実乃里の中に不快感が湧き上がる。

白蛇は縁起のいい生き物で、神社仏閣で祀られているところもあるというのに、極悪人の顔をした斑目には似合わない異名だと思っていた。


「迷惑な蛇さんですね」と実乃里が同情すれば、「そうなのよ」と深雪ママがほとほと疲れたようにため息をついた。

斑目は絡み酒をするタイプで、はっきり言って来店してほしくないそうだが、夫が極道であり、かつスナック自体が猿亘組と深い関係にあるため、追い帰せないらしい。

昨夜の斑目はいつもにも増して迷惑な飲み方をして、散々愚痴を垂れて一般客に暴力もふるいそうになったそうだ。

しまいには寝入って朝まで起きず、深雪ママはお怒りの様子である。


「なにか嫌なことがあったらしいのね。俺はもう駄目だとか、猿亘組は終わったとか、グダグダなのよ。大きなしのぎに失敗でもしたのかしら。うちの旦那もここのところ忙しそうで、昨夜はヘルプメールを送ったのに未読なの」


冗談めかした言い方で、「使えない男ね。捨てちゃおうかしら」と深雪ママは肩をすくめる。

洋子に呼ばれたため、それで会話を切り上げた実乃里は、出来上がったトーストセットを客席に運んだ。

店内を忙しく動きながら、深雪ママから聞いたことについて考える。


(組の中でなにかあったのかな。そういえば最近、一尾さんたち三人の姿を見ていない。龍司さんは以前より来店してくれるし、普通に食べて帰るだけで、特別変わった様子はないんだけど……)


< 175 / 213 >

この作品をシェア

pagetop