極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
昨日までとは少しだけ違う龍司に目を瞬かせた実乃里だが、うまかったと言われたのだから喜んでいいのだろう。

「なんだ?」と問われて、首を横に振った実乃里は笑顔を戻す。

そして、差し出された一万円札を受け取り、レジからお釣りを出そうとした。

すると、「取っておけ」と彼に言われる。


「カフェを開くんだろう? 準備金の一部にしてくれ。コーヒーカップ数個しか買えないだろうが」


龍司が実乃里の夢の話を知ったのは、おそらくひと月ほど前のこと。

組事務所内で実乃里が斑目に取引を持ちかけられた時に、後ろで話を聞いていたようなので、きっとその時だろう。


貯金に励む貧乏人の実乃里にとって、九千円強の釣銭は大金である。

受け取っていいのかとの迷いに加え、明らかにいつもとは違う龍司に戸惑っていた。


「龍司さん、なにかありました?」


思わずそう問いかければ、「なにもない」と無表情で即答された。

「じゃあな」と背を向けドアへ進む彼に、実乃里は慌てて「次はいつ来てくれますか?」と来店予定を聞く。


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